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2008年10月11日 (土)

『安全。でも、安心できない…』

こんな本を待っていた!

安全。でも、安心できない…―信頼をめぐる心理学 (ちくま新書 746) Book 安全。でも、安心できない…―信頼をめぐる心理学 (ちくま新書 746)

著者:中谷内 一也
販売元:筑摩書房
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今日の日本での生活が、歴史的にも、他の国と比べても、豊かで安全なものであることを頭では理解しているのに、実際には安心を感じていないのはなぜなのか?
「安全なのに安心できない」という人びとの気持ちを社会心理学の観点から解説したスゴ本!。

今回は、dankogai風に始めてみました。

文章はとても読みやすく、2,3時間で楽に読み通すことができます。
章ごとのポイントが明確で、理解しやすい書き方になっていると思います。
主張を過度に一般化することを控え、仮説は仮説としてはっきり提示する著者の態度にも好感が持てます。

以下に概要をまとめます。

第1章

安全さえ確保できていれば安心を確保できると素朴に考えている企業や行政部門は多いが、「安心」は「安全」と違う。
「リスク認知研究」とは、科学技術や人間の諸活動、自然現象などによる事故や災害をどのように 認識しているのか、あるいは、生命や健康、財産を失ってしまう可能性、すなわちリスクの程度や性質をどのように受け止めているのかを明らかにしようとする研究分野である。

私たちは、経験によって身につけたパターン化された認識のまとまり、すなわち、”スキーマ”を利用して対象を解釈しようとする。
赤福偽装事件を例に考えてみると、赤福偽装事件は、最初の報道の段階では、できたてであるかのように偽って表示したことが問題であって、衛生面の安全性の問題ではなかった。
しかし、消費者は安心しなかった。
赤福の事件の前の一連の偽装事件から、消費者の頭には、「偽装をするような会社は、安全面でもきっと悪いことをしているに違いない」というスキームができあがっていたのではないか。
その後、実際に安全面でも問題があったことが発覚し、結果的には消費者の判断が正しかった。
安全性とは直接関係ないトラブルでも、人びとの安心は大きく損なわれることがある。企業や行政は、現実の安全性を高めようとするだけでなく、人びとのこころに向き合って、安心を高めることを考えなければならない。

第2章

私たちの生活は、分業により衣食住すべての領域において外部への依存性がたいへん高くなっている。
このような社会では安全を外部の専門家に委ねる場面も増えている。
人びとは、専門家が信頼に値するかどうかをどのように判断しているのか。

「二重過程理論」では、情報処理の過程が二種類あると考える。
情報処理の負荷が高い「中心ルートによる処理」と、情報処理の負荷が低い「周辺ルートによる処理」である。
個人があることがらに関して、何らかの意見や情報などを示された場合、
(1)その情報を詳細に処理するよう動機づけられているか
(2)その情報を詳細に処理できる能力があるか
によって情報処理のルートが異なる。
動機づけも能力もある場合は中心ルートの処理が進められ、動機づけと能力のいずれかが低い場合は周辺ルートによる処理が進められる。

知識や能力を欠いた領域では、信頼などを手がかりとした負荷の低いタイプによって判断をする傾向が強くなる。
つまり、信頼が安全判断や安心に影響するのは、その人の動機づけが低いか、知識が低い場合である。

信頼には非対対称性がある。
信頼を得るにはたくさんの肯定的実績の積み重ねが必要で長い時間を要するが、信頼性を失うにはたったひとつの否定的な事実で十分である。
単純な非対対称性モデルでは、社会的な信頼は全体として悪化する一方のように思えるが、実際はそうなってはいない。
単純な非対対称性モデルではうまく当てはまらない部分も説明するモデルとして、二重非対称性モデルが提唱されている。
二重非対称性モデルでは、人は事前の信頼レベルを維持する方向で、後続する情報を受け止める、と考える。
信頼されているリスク管理責任機関はますます信頼を高めやすく、信頼のないリスク管理責任機関はますます信頼を失いやすい。
低い信頼性を肯定的なできごとの積み重ねで少しずつ高めていき、それをあるレベルにまで到達させることができれば、人びとからの信頼性は安定する、と二重非対称性モデルは予測する。

第3章

それでは、どのような要素が備わっている人が信頼され、どのような場合には信頼されないのか。

信頼研究者は、「動機づけ要因」と広い意味の「能力要因」の2つが信頼を導くと結論する。
「能力」とは、特殊な安全管理技術だったり、専門知識であったりし、「動機づけ」とは、リスク管理への取り組みのまじめさであったり、立場の公正さであったり、リスクにさらされる人たちへの思いやりであったりする。

リスク管理に携わる人間が信頼を得るためには、高い技術力を持っていると認識されることも重要だが、リスク管理の姿勢をどう評価されているか、という点を配慮することも必要である。

第4章

「動機づけ」や「能力」といった要因とは異質の要因によってリスク管理者への信頼が決まるという考えが現れた。
それは、リスク管理者と自分とが同じ価値を共有していると感じられるとき、リスク管理者への信頼が生まれるという考え方である。
これが、主要価値類似性モデル(SVSモデル)である。
リスク管理の領域に当てはめて言うと、ある個人が、リスク管理者は当該問題を自分と同じようにとらえ、問題解決のプロセスや結果において何を重視すべきか、という考えを共有していると感じるとそのリスク管理者を信頼するということである。

それでは、従来の従来の社会心理学の信頼既定要因のモデルとSVSモデルの関係はどうなっているのか。
従来の従来の社会心理学の信頼既定要因のモデルは問題への関心の低い人の信頼をうまく説明し、SVSモデルは比較的関心の高い人の信頼を上手く説明するのではないか、と考えられる。
つまり、関心の高い人にとってのリスク管理者に対する信頼判断は、すでに自分の中で明確になっている価値を相手が共有しているかどうかを判断することであり、相対的に能力評価や動機づけ評価の重要性は低くなる。
関心の低い人では、相手の動機づけや公正さ、能力などへの評価が、信頼できるかどうかの判断の上で重要な要素となり、相対的に価値類似性評価の重要性は低くなる。

第5章

リスク認知に関するバイアスの一種に一次的バイアスと呼ばれるものがある。
これは、あまり発生しない望ましくないこと(薬物常用者による殺人、人質立てこもり、等)については発生頻度を過剰に推定してしまい、逆に、たいへん多く発生している望ましくないこと(空き巣、ひったくり、等)に対しては、発生頻度を過少に推定してしまうという認知傾向である。

低頻度犯罪に対する過大評価、高頻度犯罪に対する過少評価は、「不安感情」によっても説明できる。
身体に危害が及ぶ犯罪について考えるときは強い不安感情が引き起こされ、その影響によって発生件数が過大に見積もられてしまうのではないか、ということである。

ヒューリスティクスは、簡単なルールで解を導く、情報処理負荷の小さな「判断の近道」である。
前の章で見た、「信頼できるあの人が危ないといっているのだから、私もそれは遠ざけておこう」という判断のしかたも、そのひとつの形である。
リスク認知において最も重要なヒューリスティクスが感情ヒューリスティクスである。感情ヒューリスティクスとは、対象を見聞きしたときに感覚的に抱く「嫌な感じ」「好ましい感じ」という、ネガティヴ、もしくは、ポジティヴな内的経験を手がかりとする判断法である。

人間は、意識的で、分析的な「理性的システム」と、無意識的、自動的に働く「感情システム」の二つの情報処理システムを持っている。
「感情システム」は進化の過程の中で育まれたものであって、感情に基づく判断からは完全に逃れることはできない。                  

終章

最近では、能力認知と動機づけ認知を強調する従来からの考え方と主要価値類似モデルとを統合したような理論も提唱されている。
Trust,Confidence and Cooporation(TCC)モデルである。
TCCモデルでは、価値の類似性認知が動機づけ認知を導き、また、過去の実績が能力認知を導き、両者が相まってリスク管理組織への協力へと人びとを向かわせると考える。

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コメント

はじめまして。
dankogai氏のレビューを見て「さすがにこんな薄っぺらな内容ってことはないだろう…」とは思っていたのですが、こちらの紹介を読んで面白い本だと確信できたので買ってみました。
とりあえず第3章あたりまで読んだところですが、いろいろと考えさせられる良書だと思います。

投稿: やぴ | 2008年10月17日 (金) 23時00分

やぴさん、こんにちは。

>とりあえず第3章あたりまで読んだところですが、いろいろと考えさせられる良書だと思います。

そうですね。
今、日本で起きている色々な問題に応用できそうで、薄いけれども内容の濃い良書だと思います。

投稿: a-gemini | 2008年10月18日 (土) 00時31分

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