カテゴリー「本(ミステリ)」の記事

2008年1月27日 (日)

「名短篇、ここにあり」北村薫 宮部みゆき 編

ベストは「冷たい仕事」と「少女架刑と「考える人」。
つまらなかったのは、「網」と「誤訳」と「鬼」。それ以外は結構面白かった。
ヒット率は9/12か。この手のアンソロジーとしてはまあ悪くないかな。
個々の作品の感想を書く前に本の作りについて苦言を。この本は「小説新潮」の「創刊750号記念名作選」のテクストを元にしていて、それは別にかまわないのだが、初出の情報がないので、いつ頃の作品なのかも分からないし、同じ作者の同傾向の作品を読みたいと思っても、どの本を探せばよいのか分からない。(ちなみに、私が同じような作品を読みたいと思った「少女架刑」は新潮文庫の「星への旅」に収録されている。)ちょっと不親切なんじゃないかと思った。

以下、作品ごとにコメント。
若干ネタばれ気味の記述を含みますので、まだ読んでない人は以下はとばしてください。

「となりの宇宙人」半村良
下町的な庶民の描写とSF的なモチーフの組み合わせが楽しい。
これを思いっきりヘビーにすると「岬一郎の抵抗」になるわけですね。

「冷たい仕事」黒井千次
読後、「なんじゃこりゃあ!」と叫びたくなる作品。出だしを読んだ時点では、あんな展開になるとは、まず予想できない。だけど、心理的な説得力はあるんですよね。二人で協力し合って「あんな作業」をする姿には笑ってしまう。ほんとに変な話。

「むかしばなし」小松左京
半ばまでに薄々オチの予想がつくのだが、むしろ予想された結末に向かっていくのをニヤニヤしながら楽しむのが正しいだろう。
オチは某外国作家の某有名短篇と同じですね。

「隠し芸の男」城山三郎
怖い話。サラリーマン残酷物語って感じですかね。

「少女架刑」吉村昭
これは素晴らしい。
死体の一人称と言うのは、それほど珍しいものではないと思う。解説では乙一の作品をあげているが、ブラッドベリの短篇にもそういうのがあったような気がする。
16歳で死んだ少女は、解剖のため病院に運ばれる。少女は自分が死んだという事実に動揺することもなく、生前よりもむしろ鋭敏になった感覚で自分の周りの出来事を観察している。描写の視点が、死体から見たものだったり、体から離れて見たものだったりと一貫しないのだが、それがかえって奇妙な効果をあげている。死体にかまきりがとまるシーンと最後の骨の崩れる音が響くシーンに戦慄を覚える。なぜかウォルター・デ・ラ・メアの短篇を思い出した。

「あしたの夕刊」吉行淳之介
未来の日付の入った新聞を手に入れて、そこに書かれている通りのことが起きるという設定は珍しいものではないが、予想外の方向でオチが付いて新鮮だった。

「穴 -考える人たち-」山口瞳
冒頭近くの「ドストエフスキー」とのかみ合っているのかかみ合ってないのかよく分からない会話に頭がクラクラした。

「網」多岐川恭
解説では「変なユーモアがある」とされているが、私はサスペンスは感じてもユーモアは感じることができなかった。 

「少年探偵」戸板康二
3つの紛失事件を少年探偵が次々と解いていく。最初の二つの事件と少年の心理が最後の事件の伏線になっているところが上手い。

「誤訳」松本清張
このタイトルで、出だしの文章を読めば、どんな「誤訳」なのだろうとワクワクするのだが実につまらないオチだった。文学を卑近なレベルに引き降ろす結末には、清張自身の純文学に対するコンプレックスを感じてしまう。語り手が真相に気がつくきっかけも、何の工夫も芸もなくつまらない。
やはり私は松本清張を好きになれないようだ。

「考える人」井上靖
これはとても良かった。 断食をして自ら木乃伊になったコウカイ上人。その木乃伊の調査に向かう新聞記者の主人公達4人が、取り憑かれたように次々と上人の人生を語り出す。4人によって紡ぎ出された上人の伝記は、奇妙な実在感を持って読者の脳裏にイメージを結ぶ。

「鬼」円地文子
鬼に憑かれた母と娘の話。全く面白くない。なんでこの作品が選ばれたのか理解できない。「鬼に憑かれた」ってなんのことよ?って感じ。「鬼」を信じるような人が現実にいるからそれを描いたのだということならそれでもいいが、だとすると作品の中で起きた出来事は現実的に感じられないし、純然たるファンタジーとして読もうとしても、やっぱりつまらない。

Book 星への旅

著者:吉村 昭
販売元:新潮社
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2008年1月 6日 (日)

「半身」サラ・ウォーターズ 他

帰省中に読んだ本。

・「半身」サラ・ウォーターズ
これは素晴らしかった。すっかり作者の術中にはまってしまった。「このミス」1位も納得。

・「ハイペリオン」ダン・シモンズ
スペオペっぽいのかなと思って読んだら、結構、時間テーマが入っていて、「時間ものSF」好きの私としてはうれしかった。解説では触れられてないけど、「学者の物語」(これがまた泣ける話なんだ)って、キルケゴールの「おそれとおのののき」の議論がベースになってますよね。作品としての評価は「ハイペリオンの没落」を読んでから。

・「殺す風」マーガレット・ミラー
作者の人物描写が見事。一応ミステリ的なオチはついているけど、とってつけたような感じで、むしろ普通小説として読んだほうが楽しめるのではないかと思う。

で、「半身」に話を戻すのだが。ネットで色々評判を見て回ったのだけど、この作品を「読みにくい」とか「難解だ」とか言ってる人達って、普段どういう小説を読んでいるんですかね。第一部のあたりは、話のペースがゆっくりしていて読むのに割と時間がかかるけど、情報を小出しにて読者の興味を引くから退屈はしないし、とくに読みにくいということはないと思う。ストーリー的にも明快だし、2つの手記が交互に語られると言っても、別に複雑な構造をしているわけでもない。

(以下ネタバレぎみなので、反転表示です)

内容に関して言えば、「物語半ばあたりでその後の展開が読める」「トリックが単純だ」だとかとか文句を言ってる人が多いけど、ちょっと筋違いだと思う。トリックの単純さに関して言えば、合理的に考えれば当たり前の結論を、雰囲気描写や主人公に感情移入させることで読者の眩惑する作者の筆力を賞賛するべきだと思うし、後の展開が読めるということについても、主人公が破滅に向かっているのが分かるからこそ、終盤の強烈なサスペンスがあるのだと私は感じた。
また、主人公が牢獄で霊媒師の女囚とはじめて会う場面で霊媒師に神秘的なイメージを与える役目をする菫が、真相が分かった後には逆にペテンのシンボルに逆転してしまう鮮やかさや、主人公が海外に逃走するに当たって書いた友人への手紙が、結末を読んでから読み返してみると、自殺前の遺書として読めるようになっているという巧みさなど、ミステリとしての読みどころが随所に仕掛けられている。この作品をけなしている人達は、そのあたり、ちゃんと読み取れてるのだろうか。

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2007年12月12日 (水)

「幻の特装本」ジョン・ダニング

amazonのレビューに書いたものを流用。

前作同様、読みやすく、読者の興味を引き続けるテクニックが巧みで、最後まで面白く読むことができたが、ミステリとしては、前作と比べて大分落ちると言わざるを得ない。
一番問題なのは、真相に意外性が不足していること。犯人の本当の動機に見当がつけば、自ずと犯人が絞り込まれてしまうのだ。
前作では、犯人が判明した後も謎が残されており、最後の一行で鮮やかに謎が解き明かされるのだが、今回の作品では動機と犯人が分かってしまえば、読者の興味を引き付けるような謎はなくなってしまうのだ。
他にも問題がある。物語の前半で中心となっていた登場人物が、後半になると急速に存在感を失ってしまうのだ。前半でのヒロインである少女は、物語の中盤で悪役に誘拐されてしまうのだが、主人公は、そちらの捜査は警察に任せて、自分は幻の本の捜査のほうに専念してしまう。主人公の立場に立ってみれば合理的な態度ではあるのだが、読者としては、あまりにはあっさりしすぎだと感じざるを得ない。
結局、その少女は、終盤でチラッと姿を現しただけで消えてしまうのである。読後に余韻を持たせることを狙ったのかもしれないが、あまり効果をあげているとは思えない。
また、凶暴な悪役として前半で登場する男も、中盤で主人公に叩きのめされた後は、まったく姿を現さないで終わってしまう。
登場人物が落ち着くべきところに落ち着かないで終わってしまったという感じがする。

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「死の蔵書」ジョン・ダニング

amazonのレビューに書いたものを流用。

文章がとても読みやすく、情報を小出しにすることによって読者の興味を引き続けるテクニックが巧みで、最後まで面白く読むことができた。
犯人が判明した後も謎が残され、最後の一行で鮮やかにその謎が解き明かされるのもしゃれている。トリック自体は目新しいものではないのだが、とても効果的に使われていると思う。
古本にまつわる薀蓄も楽しく、全体としては十分満足できる作品なのだが、不満がないわけでもない。
メインストーリーの古本に絡んだ殺人事件と並行して、主人公の宿敵である犯罪者との対決と、その男に精神的に隷属させれてしまった女の救済というサブストーリーが語られるのだが、サブストーリーの方は、主人公のパーソナリティーを説明するのと、主人公が警察を辞めて古本屋になるきっかけを与える役目を果たすだけで、メインストーリーとは最後まで交わらないで終わってしまう。どこかでメインストーリーとサブストーリーが何らかの形で交わると思い込んで読んでいたので、少し拍子抜けしてしまった。

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