「名短篇、ここにあり」北村薫 宮部みゆき 編
ベストは「冷たい仕事」と「少女架刑と「考える人」。
つまらなかったのは、「網」と「誤訳」と「鬼」。それ以外は結構面白かった。
ヒット率は9/12か。この手のアンソロジーとしてはまあ悪くないかな。
個々の作品の感想を書く前に本の作りについて苦言を。この本は「小説新潮」の「創刊750号記念名作選」のテクストを元にしていて、それは別にかまわないのだが、初出の情報がないので、いつ頃の作品なのかも分からないし、同じ作者の同傾向の作品を読みたいと思っても、どの本を探せばよいのか分からない。(ちなみに、私が同じような作品を読みたいと思った「少女架刑」は新潮文庫の「星への旅」に収録されている。)ちょっと不親切なんじゃないかと思った。
以下、作品ごとにコメント。
若干ネタばれ気味の記述を含みますので、まだ読んでない人は以下はとばしてください。
「となりの宇宙人」半村良
下町的な庶民の描写とSF的なモチーフの組み合わせが楽しい。
これを思いっきりヘビーにすると「岬一郎の抵抗」になるわけですね。
「冷たい仕事」黒井千次
読後、「なんじゃこりゃあ!」と叫びたくなる作品。出だしを読んだ時点では、あんな展開になるとは、まず予想できない。だけど、心理的な説得力はあるんですよね。二人で協力し合って「あんな作業」をする姿には笑ってしまう。ほんとに変な話。
「むかしばなし」小松左京
半ばまでに薄々オチの予想がつくのだが、むしろ予想された結末に向かっていくのをニヤニヤしながら楽しむのが正しいだろう。
オチは某外国作家の某有名短篇と同じですね。
「隠し芸の男」城山三郎
怖い話。サラリーマン残酷物語って感じですかね。
「少女架刑」吉村昭
これは素晴らしい。
死体の一人称と言うのは、それほど珍しいものではないと思う。解説では乙一の作品をあげているが、ブラッドベリの短篇にもそういうのがあったような気がする。
16歳で死んだ少女は、解剖のため病院に運ばれる。少女は自分が死んだという事実に動揺することもなく、生前よりもむしろ鋭敏になった感覚で自分の周りの出来事を観察している。描写の視点が、死体から見たものだったり、体から離れて見たものだったりと一貫しないのだが、それがかえって奇妙な効果をあげている。死体にかまきりがとまるシーンと最後の骨の崩れる音が響くシーンに戦慄を覚える。なぜかウォルター・デ・ラ・メアの短篇を思い出した。
「あしたの夕刊」吉行淳之介
未来の日付の入った新聞を手に入れて、そこに書かれている通りのことが起きるという設定は珍しいものではないが、予想外の方向でオチが付いて新鮮だった。
「穴 -考える人たち-」山口瞳
冒頭近くの「ドストエフスキー」とのかみ合っているのかかみ合ってないのかよく分からない会話に頭がクラクラした。
「網」多岐川恭
解説では「変なユーモアがある」とされているが、私はサスペンスは感じてもユーモアは感じることができなかった。
「少年探偵」戸板康二
3つの紛失事件を少年探偵が次々と解いていく。最初の二つの事件と少年の心理が最後の事件の伏線になっているところが上手い。
「誤訳」松本清張
このタイトルで、出だしの文章を読めば、どんな「誤訳」なのだろうとワクワクするのだが実につまらないオチだった。文学を卑近なレベルに引き降ろす結末には、清張自身の純文学に対するコンプレックスを感じてしまう。語り手が真相に気がつくきっかけも、何の工夫も芸もなくつまらない。
やはり私は松本清張を好きになれないようだ。
「考える人」井上靖
これはとても良かった。 断食をして自ら木乃伊になったコウカイ上人。その木乃伊の調査に向かう新聞記者の主人公達4人が、取り憑かれたように次々と上人の人生を語り出す。4人によって紡ぎ出された上人の伝記は、奇妙な実在感を持って読者の脳裏にイメージを結ぶ。
「鬼」円地文子
鬼に憑かれた母と娘の話。全く面白くない。なんでこの作品が選ばれたのか理解できない。「鬼に憑かれた」ってなんのことよ?って感じ。「鬼」を信じるような人が現実にいるからそれを描いたのだということならそれでもいいが、だとすると作品の中で起きた出来事は現実的に感じられないし、純然たるファンタジーとして読もうとしても、やっぱりつまらない。
| 星への旅 著者:吉村 昭 |
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